開発者インタビュー「サイバーパンク2077のレベルデザイン」【翻訳】

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2019年 GamescomでのMiles Tost氏(シニアレベルデザイナー)へのインタビューです。

1年前のものなので鮮度は落ちますが、内容が良かったため全訳しました。普段よく目にする「レベルデザイナー」が実際の現場でどのような作業に携わっているかなど、見所の多いインタビューになっています。ただし、当時はまだ発売日延期が伝えられていない時期で、2020年4月発売を前提に質問や回答が進む箇所があるなど、情報が古い部分もあります。その点に留意してご覧ください。


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- CD PROJEKT RED(以下CDPR)で現在の職に就いたのはいつのことですか?
Miles Tost(以下MT):シニアレベルデザイナーになったのは今年(2019年)に入ってからで、CDPRには入社して7年になります。私が入社した当時はちょうどTW3の開発が始まったばかりの頃で、シニア職になるまではTW3の開発に(レベルデザイナーとして)携わっていました。

- 現在CDPRには何名のレベルデザイナーが在籍しているのですか?
MT:一つのスタジオに全員がいるというわけではなく、本社のワルシャワとクラクフにそれぞれいます。レベルデザイナーは全員合わせて10人ぐらいでしょうか。

- CDPRで働く全従業員の数はどのくらいですか?
MT:サイバーパンク2077の開発に携わっているのは600名ぐらいですね。

- レベルデザイナーとは具体的に何をする人たちなのですか?建物などのレベル(面)...つまり空間を設計するということのようですが…
MT:私たちの仕事はプロジェクトの各段階でその内容も変わってくるのですが、まずマップを制作する所から作業はスタートします。クエストデザイナーからストーリーとそれに関連するマップを与えられ、彼らがそこでどのような物語を展開したいのか、それに基づいて私たちが各ロケーションを(具体的に)構築していくのです。
例えば必要なロケーションに病院があったとしましょう。この時ただ病院を用意すればいいのではなく、その時々のゲーム進行に「適合した」病院でなくてはいけません。その上で実際のゲームプレイをいかに面白くできるか、といったことも考慮する必要があります。こういった要素を全て踏まえながら、最終的にゲームに必要な「病院」を作っていくわけです。
サイバーパンク2077の開発では、ゲームプレイにしっかりと「適合する」ロケーションの作成は簡単なことではありません。プレイヤーに様々な手段が用意されているということは、こちらもそれを想定して作業を進める必要があります。プレイヤーがこのアビリティを有しているなら、このロケーションで彼らはそれをどう使うだろうか、といった具合にね。ですからとても複雑ですがそれだけやりがいのある作業ともいえます。
他にも各ロケーションの装飾作業や、世界の枠組み(例えばプレイヤーが移動しやすいような一般的な通路の幅など)の設定も私たちの仕事です。

- 肩書きはレベルデザイナーということですが、建築やインテリアデザインの職歴をお持ちだったりするのですか?
MT:いえ、もともとゲームデザインを勉強していて、この業界にもレベルデザイナーとして入りました。ですが自分の研究分野がゲーム業界だけにとどまっているという意味ではないですよ。いつも口にしていることですが、特定の分野だけに明るいだけではゲーム/レベルデザイナーは務まらないと思います。例えば本当にリアルな「病院」を用意したいなら、その建築様式をはじめ、どうやって病院(の業務)が回っているのかといったことまでリサーチしなくては、「病院のこと何もわかってないな」といった判断をプレイヤーのみなさんに即座に下されてしまいます。
私たちもプレイヤーが思わずその世界に没頭してしまうようなリアルな世界を作り上げたいですし、そのためには各ロケーションもそれに見合ったリアルなものが必要です。
もちろんこのようなリアルな世界の構築は、プロジェクトが段階を経ることによって徐々に形になっていきます。最初から完全なロケーションが作成されるわけではなく、一定の水準に達すればその後数ヶ月はノータッチで別の作業に移ります。その後再びその作業に復帰すると、以前私たちが設置していたプレースホルダーに変わって3Dアーティストが新たなオブジェクトを追加してくれていたり、簡素な椅子がいつのまにか立派な椅子に様変わりしています。時間の経過とともに方針の転換や修正を迫られることもありますが、徐々に世界ができあがっていく様を目にするのはとても楽しいですよ。

- あなたもTRPGが好きなお一人ですか?
MT:好きですね。従業員全員というわけではないですが、CDPRには多くのTRPGファンがいて現役プレイヤーも中にはいます。サイバーパンクシリーズはもちろんですが、社内には
D&Dパスファインダーのグループもいるぐらいです。少し前まではみんなで「コール・オブ・クトゥルフ」をプレイしてました。

- 本作のベースになっているサイバーパンク2020はもともと本国ポーランドでとても人気があるTRPGと聞きましたが本当ですか?
MT:ポーランドでTRPGが人気なのは事実です。国内には多くのファンがおり、私たちが現在サイバーパンク2077というゲームを作っているのも、CDPRの創設者が当時サイバーパンクシリーズをプレイしていたからです。新規IPとして何のゲームを作るかという過去の話し合いの時に、サイバーパンクの名前がすぐに上がったのも頷けますね。

- ウィッチャーシリーズが小説をベースにしたゲームであるように、本作もTRPGをベースにしています。あなたはよく「サイバーパンクはウィッチャーシリーズの未来版」といった内容を口にしますね。ですが私はそう思いません。両者で用いられている素材やRPG要素などは全く異なると思いませんか?ウィッチャーとサイバーパンクが完全に別物である必要性はないのですか?
MT:もちろんです。ウィッチャーとサイバーパンクの近似性について私が言っているのは、あくまで開発スタンスのことであり、そのクオリティがウィッチャーシリーズに劣るものではないという意味です。TW3を気に入ってくれたプレイヤーの方々なら、あらゆる部分でサイバーパンクにも同等のクオリティを求めるでしょう。これはDRMや発売後のDLC展開など購買サポートについても同じです。
ですが作品そのものについて見た場合、当然両者は全く異なるゲームです。本作の一人称視点はデザインする手法も違いますし、ウィッチャーとは完全に別物の体験をプレイヤーにもたらします。
またTW3はストーリーがゲームそのものを牽引するようなオープンワールド作品でしたが、当時そういう作品は珍しい存在でした。濃密なストーリーとオープンワールドをうまく融合させたゲームはまだ少なかったのです。
ですが私たちはTW3でそれを達成することができ、本作ではさらに3つ目の柱を設けて開発に取り組んでいます。それが「ゲームプレイでもユーザーに自由度を提供する」ことです。

- しかしそれは容易なことではないと思うのですが…どのように開発を進めているのですか?ウィッチャーではプレイヤーがクエストをほっぽらかして別のことをすることもできましたが、サイバーパンクになるとその選択肢がより一層増えるということですよね?
MT:そうです。プレイヤーのみなさんには多くのオプションを用意しています。ただし、全てをほっぽらかして「あれもこれも」というわけにはいかないですよ。私たちもそうならないための工夫をしていますし…

- ですがレベルデザインの観点でいうなら、開発は困難を極めるのでは?どうやってプレイヤーに「正しいパス」を選んでもらうのでしょう?
MT:これはTW3の開発で学んだ教訓の一つですが、私たちにとって「正しいパス」というものは存在しません。プレイヤーを魅了するようなメインストーリーを用意するのは当然ですが、と同時にオープンワールド上でプレイヤーに十分な自由度とコンテンツを提供しようというスタンスです。これは見た目だけの話ではありません。プレイヤーが他者にどう接し、何を着てどんなアビリティを選択するか、どんなクラス構成で使用する武器は何か、戦闘ではどのようなアプローチをとるのか、といった様々な要素をレベルデザインの視点から支えていくわけです。ステルスでもシューターでもプレイヤーの好きにやってほしい、それが私たちの目指す所ですからね。

-本作のサイバネティクスですが…やっぱり良いものはお高いんですか?例えば普通にプレイしていたら手が届かないような値段で、課金すれば手に入る…といった要素はありますか?
MT:もちろん性能の良いものは値が張りますよ。(経済面でも)理にかなった世界にしたいですからね。良い装備は値段も高いです。
例えば(光学系のサイバーウェアなら)値段によって視認性が変わってきます。安いものでも活用には足りますが、(より見やすくなる)人工レイヤーは表示されません。安物のサイバーウェアは見た目もチープでゴツいですし、逆に企業エリートなどが愛用する最新サイバーウェアなら非常に巧妙な作りになっています。またプレイヤーが装備を購入する方法は複数ありますし、本作はエコノミーシステムも本格的ですよ。
あと本作にマイクロトランザクションはありません。ゲーム内課金でアイテムを入手することはできません。本作にルートボックス的なものがあるとするなら、無料のDLCや(有料の)拡張コンテンツといった、あくまでTW3と同じ類のものを用意します。

- マルチプレイヤーについてはどうですか?バトルロワイヤル的なものはありますか?
MT:そうですね…他にもオートチェスモードとか?(笑
真面目な話をすると、マルチプレイヤーについてはまだR&D段階なので、それについてはまだ話せません。本作は完全なシングルプレイヤー体験を約束する作品ですから、我々としても今はそれだけに集中しています。
例えばストーリーを主体とする本作のような作品で複数のプレイヤーを軸に据えてしまうと、彼らはきっと本作の自由度をPvPのような打ち合い合戦に使ってしまうでしょう。ですがそのような自由度は別の自由度を奪いかねません。私たちは本作でプレイヤー個々に異なるパーソナルな体験を提供したいのです。

- キアヌ・リーブスについてですが…彼はゲーム中ずっとそばにいるのですか?それともメインクエストになるとポッと出てくる感じですか?
MT:キアヌが演じるジョニー・シルヴァーハンドは通常のコンパニオンではありません。主人公と同列に扱ってもいいぐらいの存在です。これはメインストーリーにおいて主人公のVが脇役に回るということではなく、どちらも重要な存在という意味です。
また開発視点でいうと、本作ではジョニーをある種のガイド役として使っています。例えばTW3ではゲラルトが探索時にブツブツ独り言を言ってましたよね?あれはモンスターを追跡する時のプレイヤーガイドを兼ねていました。ですが本作の主人公はプレイヤーの分身ともいえる存在なので(Vがブツブツ独り言をいう性格…という固定設定は入れられないので)、ジョニー・シルヴァーハンドを使ってVとコミュニケートしてもらいつつ(ゲーム進行上の)ガイド役も務めてもらうという仕組みになっています。
とはいっても何かあるたびにジョニーが「あそこにあれがある!これがある!」といちいち口を挟んでくるわけではないですよ(笑。そういうゲームではないです。
ともかくジョニーも本作のストーリーをつかさどる重要なパーツの一部であり、独自のキャラクター像を有しています。パーソナリティがあり、Vと行動を共にする理由もあります。ですからその道中でVと意見が衝突することもあれば、両者の関係性や問題の対処方法によってメインストーリーに変化が生じるでしょう。

- 2人の関係そのものが本作のメインのストーリーアークだったりするのですか?
MT:それも一部にあります。ジョニーとVがサイバーパンクの世界でどのように問題に対処するのかといった部分ですね。ですがサイバーパンクというのは一つの確立されたジャンルでもあります。どの作品でも通常メインキャラクターは世界を救う存在ではありません。サイバーパンクというのは、ストリートレベルで引き起こされる抑圧された市民たちの物語です。そこには高尚なゴールもキャラクターがヒーローである必要もありません。困難な状況に追い込まれるのは共通していますが、このジャンルの最大のモチベーションは「過酷な世界でどうやって生き残っていくか」という部分にあると思います。
ですからプレイヤーは世界を変える存在ではありません。巨大企業を牛耳る存在にもなれません。世界に踏み潰されないよう懸命に日々暮らす一市民に過ぎないのです。

- Vは世界を救うスーパーヒーローではないと…
MT:もちろんそういう設定も好きですし、それをダークな世界観で実現することも可能だとは思いますが、サイバーパンクのストーリーではフォーカスする部分が劇的に変わってくるのは事実ですね。

- 2つ目(2019年)のデモで舞台になっていたパシフィカはナイトシティとは別のロケーションなのですか?
MT:いえ、パシフィカはナイトシティを構成するエリアの一つです。本作は6つの区画で構成される巨大な一つの都市(ナイトシティ)を舞台にしています。もしかすると後に別のエリアへ行くことも可能かもしれませんが、現時点ではそれ以上のことは言えません。

-TW3では移動手段として(馬の)ローチがいましたが、正直使いにくくて私はしょっちゅうファーストトラベルを利用してました。サイバーパンクの移動手段はどのような感じになっているのですか?エアカーのようなものもあるようですが…
MT:本作のAVs(エアロダイン)をプレイヤーが移動の際に自由に使うことはできません。到達可能なロケーションが無数に膨れ上がってしまい、レベルデザイナーが死んでしまいます。プレイヤーがスタックしないか確認するためのデバッグ作業も困難を極めるでしょう。
特定のクエストやストーリーラインでAVsを利用することはありますが、上記の理由で本作の移動手段は主に車やバイクが主体です。なおプレイヤーが所有できる車はバラエティに富み、普通に購入するだけでなく行動次第では誰かから贈呈を受けることもあるかもしれません。もちろんどれもローチよりスピーディーに動きますよ(笑

- TW3ではグウェントも良かったですね。サイバーパンクでもフィジカルな
カードゲームが販売されるようですが、本作にはグウェントのようなカードゲームはありますか?
MT:ないですね。サイバーパンク2077のミニゲームについてはまだ検討している部分もありますが、現時点ではカーレース、拳闘試合、シューティングレンジ、ハッキングの4つです。

- デモにもあったそのハッキングなんですが…私は何をしているのか全く理解できませんでした!(笑
MT:説明してみましょう…あれはサイバーデッキと呼ばれるサイバーウェアをインストールしてハッキングしています。サイバーデッキはゲーム内の特定のアクセスポイント(一種のルーターのようなもの)をハッキングすることができるデバイスで、これを使ってネットワークへ侵入し制御機能を乗っ取ります。監視カメラや遠隔マイクをオフにするといった用途に使うのですが、ハッキングそのものはロケーションごとにバリエーションも様々で、ハッキングのコツを掴んだ後もまだまだチャレンジしがいのあるものになっています。

- 昨今のゲーム業界はますます脚光を浴び、いろんな所で議論され関心を集めています。CDPRはタブーを恐れず〜少なくともウィッチャーシリーズがそうであったように〜完全に成人向けなゲームを制作するデベロッパーだと感じます。このスタンスはサイバーパンクでも変わりませんか?あなた方が避けて通りたいトピック/テーマなどはあるのでしょうか?
MT:ないですね。私たちは成人を対象としたゲーム制作に誇りをもっていますし、難しいテーマであってもそれに挑戦しようというスタンスに変わりはありません。もちろんそういうテーマを扱う時は細心の注意を払うことが欠かせませんが、と同時に変にオブラートに包んだまま何かを提示するのではなく、率直に向き合ってその問題に取り組むことも忘れないようにしています。
ですからダークで陰鬱な近未来を舞台にしているサイバーパンク作品として、本作のディストピアな世界をリアルに感じてもらえるようにすることはとても重要です。また思い切った表現方法の方がプレイヤーに伝わりやすいこともありますし、そういう場合はライターチームの真骨頂で彼らの創作力がいかんなく発揮されるでしょう。

- 発売日(訳注:延期前の発売日)まであと239日です。現在の開発の進捗状況を教えてください。
MT:そうですね…開発は順調に進んでますが、完成までにはまだまだやるべきことが残っています。メインのデバッグ作業以外にもシステムのバランス調整など…音声収録もまだ完了してませんしイテレーションも続きます。
ゲーム開発というのは最初のアイデアをそのまま製品化しているわけではありません。プレイして、テストして、変更(修正)する〜これの繰り返しです。プレイヤーが求めるものは何か、もしそれをゲームで実現できないとしても代替案は他にないか。あらゆるケースを想定して現在も(プレイ→テスト→修正の)イテレーションを行なっています。

- 発売後についてはいかがですか?プレイヤーのフィードバックなど開発中には出てこなかったアイデアを追加するおつもりは?
MT:当然ありますよ。CDPRはその辺がとてもオープンなので、TW3でも発売後に数多くの改善を加えましたし。例えばTW3ではUIの修正やカラーブラインドモード、ゲラルトの動作スキームなど、これらは全てコミュニティからのフィードバックに基づいて発売後にフリーアップデートした要素です。
私たちは過去の開発経験から多くを学ぼうとしていますが、その中には発売後に得られるものも少なくありません。もちろん発売後も(ユーザーが満足して)変更点が少ないに越したことはないですが、本作でも発売後の声は聞きます。

- 最後の質問です。本作の期待値はとても高く、私はこれほど期待されているゲームを見たことがありません。
MT:私もです(笑
- まさに「約束された神ゲー」のような扱いになってると思うのですが、そのあたりのプレッシャーについて教えてください。開発チームのモチベーションに繋がっているのか、それとも夜も眠れない感じなのか…いかがですか。
MT:開発陣の多くが期待に応えようと奮起してると思います。もちろん「このゲームは本当に成功するのか」と自問する時はありますよ。バグを潰しても次のバグがやってくる時などは息が詰まりそうになります。でも大抵の場合において、高い期待値は開発のやる気を一層駆り立ててくれるものです。
本作にかけられた期待の高さは我々も十分承知しています。プレイヤーのみなさんには多くのことを約束していますし、それをきっちり発売しなくてはいけない。私たちにはそれができると私は信じていますし、開発陣全員がそう思ってるでしょう。良いゲームであってくれと願っているのはコミュニティだけではありません。私たち開発の人間も同じです。
TW3が成功してもCDPRはゲーム開発における貪欲さを失いませんでした。それはウィッチャーシリーズ3作でゲームがどれだけ進化してきたかを見れば分かっていただけると思います。
これまでのCDPR作品と比較しても、サイバーパンク2077は最も意欲的なプロジェクトです。この作品がどう受け止められるかは来年になればわかるでしょう。自信はありますよ!
 
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