拡張セット『 ノヴィグラド』 ウォルター・ヴェリタスの手記

+
拡張セット『 ノヴィグラド』 に合わせて公開された、ウォルター・ヴェリタスの手記の日本語訳です。


7SF7FRJ.png


 昨日私の父が死んだ。父の所持品の中に二冊の日記を見つけた。一冊は目一杯書き込まれ、もう一冊は空っぽで中にメモが挟まっていた。


ウォルター、もしお前がこれを読んでいるのなら私の命と日記は終わりを迎えたということだろう。​
正しい真実を見つけ出すことが我々一族が成功する鍵だということを覚えておけ。​
この日記を考えや発見をまとめる手段にするとよい。お前が真実の探求者となる時は来た。​
だが気をつけろ、なぜなら真実には埋もれたままにしておいたほうがよいものもあるからだ。​
お前は私を誇らしい気持ちにさせてくれるはずだと確信している。​

                                   幸運を、
                                   ヴィクター・ヴェリタス


 これまで私は、父が見知らぬ客の仕事をするのを見て学ぶだけであった。それは些細な悪事を解決したり、人々を愛する者に再会させたり、困難な事態に賢い解決法を見つけたりするものであった。父は自分のことを真実の探求者と称していた。より狡猾だが有益な事態の真相を見つけることによって、生涯を通して私たちの食卓に食べ物を並べてきた男である。


 父の文書をほんの少しなぞったに過ぎないが、父がこれまで私と共有することのなかった、私たち一族の歴史に関する事実が明らかになった。例えば祖父の最期の後、父が最初にとった行動は祖父の日記を処分することであった。父は恐怖からそうしていた。それは私を含めほとんどの者に知られることのない理由で、祖父がヴィジミル二世の命で処刑されたからだった。


 祖父は王族に関する情報を利用して優位に立とうとしていたことが分かった。祖父の無謀さについての父の所見は、ともすれば簡単に乱用できる立場にありながら、なぜ父が企業家的な仕事を引き受けることがなかったかについて明確な像を描くものであった。


 それにもかかわらず、父が日記の最初のページで認めた真実は埋もれたままにしておいたほうがよいと言う。父は仕事においてはいつも街の怪しい地域は避けて無難な安全策を取った。祖父の死が大いなる栄光に手を伸ばすことを妨げたのだろうか?それが私がたった一つ相続したものが今暮らしている小さな部屋であることの理由なのだろうか?


 私の認める真実とは父が私を愛し、同じ足跡をたどることを願っているということである。

 そして今求める真実は私が人生において真実の探求を求めているかどうかである。
 
kXDBeiQ.jpg


ようやく私は力を奮い起こして父の事務所を訪れた。もし娼館の階上にある窮屈で乱雑な部屋をそう呼べるのであれば。だがその場所にあることには目的があった。やはりそのような建物は様々な立場の人々を寄せ付け、安定した見込み客を供給してくれるものである。足を踏み入れる前に、私は娼館の経営者であるルイザ夫人と少し話をしようと意を固めた。噂によると経営者に上り詰める前は、彼女自身も娼婦として働いていたという。現在の彼女を見ると、それが本当だとは信じない者が大半だろう。しかしその信ぴょう性を裏付けられる者は…もはや存在しない。

ルイザはそこに座り、煙草の煙に包み込まれながらもなお、彼女の煙管からはさらに煙が流れ続けていた。訪問者は皆、その部屋の中央に座っているルイザに迎えられる。彼女の周りには彼女の従業員たちが、くつろいだ様子で積極的に互いに一緒にいることを楽しんでいた。彼女の娼館に入るときの感覚は、虫が蜘蛛の巣にかかる前に抱く感覚と大差ないに違いない。客の心を弄ぶことで、彼女は誰が時間を割くに相応しいかを判断している。そういうわけで私はそこに飛び込むと、必死で咳の発作を引っ込め、勇気を振り絞り、できるだけ冷静に落ち着いた体裁を保った。結局のところ彼女は私たちのやり取りを短いものにしようとした。父の死に哀悼の意を伝えた後は、即座に彼女の建物は慈善事業などではなく、賃料が必要であるということを私に再認識させた。

無駄にする時間も長居するつもりもなかったので、私は階上へと向かうことにした。私の唯一の望みは、父が私が当面やりくりできるだけの遺産を残してくれていることであった。しかし大して驚くことでもないが、父の金庫がほぼ空っぽなのを見つけたとき、私の心はそれでも沈んだ。父はしばらく病気に苦しんでいたので、事業も明らかに不振であった。何か価値のあるものはないかと机の上の書類をざっと引っ掻き回すと、他と比べても目立つ、私に宛てられた手紙が見つかった。それは上等の羊皮紙に書かれていて、華美な封蝋で飾り立てられたその中央には炎が印されていた。

その手紙はありきたりの哀悼で始まったが、急に謎めいた様相を呈した。そこには指示があった。明後日の夜に行われる密会場所に来いというものであった。私は酷い切迫感に打ちのめされた。何かこの件はとてつもなくおかしい。だが私は死にもの狂いだった。世の常として、より大きなリスクにはそれに引き合う仕事が伴うものだ。私は前に進むことを決断した。だが用心深く街の上層の裏通りへと。私は指示された通り、表札のない少し開いた扉へと進んだ。狭い隙間を通って薄暗い明りが灯る部屋に忍び込むと、心臓は激しく高鳴った。そこには男が座っていたのが辛うじて見えた。彼は穏やかに話すと私に扉を閉めて来るように合図をした。要求に従うと彼はフードをおろした。明りに身を乗り出して正体をあらわにすると、それは他ならぬ大尋問官ヘルヴィードであった。

彼は過去に父を使役していたと私に説明した。そして今は私が父の足跡をたどることを望んでいると。どうやら永遠の炎教団の長であるサイラス・エンゲルキンド・ヘメルファルトが最近、異常に人を避けるような様子であるという。ヘメルファルトが夜に使われていない別荘に同行するための護衛を要求した際、疑念を持ったのだと。だから彼は全ての真実を知ることが大尋問官の務めであると感じている。私の任務は単純だった。もっと知ること、そしてその秘密の会合の裏にある目的について彼に報告することであった。

 私の認める真実とは永遠の炎教団の内部には明らかな分断があるということである。

 そして今求める真実はなぜ大祭司ヘメルファルトが秘密裏に会合を開くかということである。
Post automatically merged:

uWehRCn.jpg
 

 ヘルヴィードによると、大祭司ヘメルファルトは次の夜さらにもう一人の護衛を要求したという。私は彼が話した邸宅を特定しようとした。それはポンター川を渡ってちょうどノヴィグラドの外側にあり、街に向かって立っていた。教会のネズミよりも静かに、私はその邸宅を偵察するため忍び込んだ。内部は手入れされず乱れているようだった。バルコニーに何脚かの椅子とともに置かれていた一台のテーブルを除いては。これは疑うまでもなく、来たる会合に備えたものだろう。私は注意深くその部屋を見渡し、適当な隠れ場所を探した。ついには隅に隠された衣装ダンスが最も安全な選択であろうということが分かった。


 悲しいかな窮屈で不快な状態で、私はただ埃っぽいマントと共に何時間もヘメルファルトの到着を待った。その部屋を観察できる隙間は狭く、テーブルと手すりの向こうを視認することは難しかった。そのうえ私の周りのマントや帽子が、よほどの大声でない限りほとんどの音を遮断してしまっていた。だがそうした不快感も安全に身を隠せる保証を得られるのならば小さな代償であった。


 最初の人物が到着したときには日はすでに地平線の下まで沈んでいた。それはドワーフで、並みのドワーフと比べてもとびきり柄の悪い奴だった。彼は何か地図のような大きな羊皮紙を取り出してテーブルの上に置いた。この瞬間部屋には二人きりになり、静かに待ち構えていたが、程なく他の者たちがぞろぞろと入ってきた。そこには背が高く物怖じしない女がいたが、私はすぐにグドルンであると分かった。波止場を通るとき、彼女の引き潮団の下っ端に何度も悩まされていて顔を知っていたのだ。残りの二人のうち、一人はかなり痩せこけた男で上半身には何も纏わず大量の刺青で覆われていた。そしてもう一人は長いコートを着た怪しい仮面の人物であった。


 次に来たのが大祭司本人だった。どうやら彼が最後のようで、彼らはドワーフが持ち込んだその地図に注意を向け、交渉としか言い表せないことを始めた。彼らは力強くある場所をまた別の場所を指さしていた。その羊皮紙の上を指で円形になぞり、時には拳でテーブルを揺らし叫び声を上げた。詳細を判別することは難しかったが、彼らが縄張りの境界線について議論している気がした。今となっても、街の犯罪分子の間でこのような形式上の議論が行われ、見たところそれによって裏社会の混沌が決定されていると想像するのは難しいことだと思っている。しかし最も驚くべきことは、ヘメルファルト大祭司の地位と立場の人物がこのような悪党たちと会っているという事実である。


 時が過ぎ、彼らがほとんど合意することなく、張り詰めた雰囲気が高まってきたのが私にも分かってきた。程なく、彼らの不毛な言い争いは敵意を持った脅しに発展したが、交渉が血に染まる前に、大きな咳払いが騒動を遮りその部屋を静まらせた。話している人物は私からは見えない部屋の隅に立っていた。実のところ、私は六人目の人物が部屋に入ってきたことに気付きもせず、兆候すら感じなかった。そのときある考えが脳裏をかすめ、心臓がのどから飛び出た。私が到着したとき、もしすでに彼がここにいたとしたら?汗は冷たくなり、まるではらわたが捩れて結び目ができたように感じた。最初に不愉快だとみなした埃っぽいマントが今は唯一の慰めと保護のように感じた。哀れに聞こえるだろうが。


 おそらくたった数分しか経っていなかったが、それは永遠に続くかと思われた。私はうろたえていたが、この見知らぬ人物の動きに注意を集中させた。彼が私を他の皆にさらけ出す非常に恐ろしい瞬間を予期して息をひそめた。すると突然、私は空中に黄金色の煌めきを垣間見た。もしかするとコインだろうか?彼らがゆっくりとその邸宅を後にしたので、彼らの会合の終了を示すものだと思われた。私は彼らが皆去った後も、しばらく放心状態で衣装ダンスの中に押し込まれたままでいた。私がたった今目撃したのは何だったのか把握しようとした。私が力を奮い起こしてその忌まわしい場所を立ち去る頃には、朝日がもう空に広がり始めていた。街に戻る道中、私は今までの人生で最も速くそして目的をもって歩いた。


 私の認める真実とは並外れて危険で力を持った人物たちの集まりを目撃したということである。

 そして今求める真実は集まりの最後の一員の正体と彼が私の存在を知っているかどうかということである。
 
Last edited:
ouLe1It.jpg


 次の朝、私は自分の手記を見つめながらこれから取るべき道を考えようとした。疑問に溢れている状況だった。あの怪しい人物は誰だったのだろう?私はどんな厄介事に巻き込まれてしまったのだろう?あらゆる街角に悪党の集団か、音も立てない殺し屋が待ち構えているかもしれないという恐怖に度を失ったあまり、自宅からは十分過ぎるほど離れ、その代わり父の事務所に向かった。理由は上手く説明できないが、あの娼館には自宅にもはや感じることができなくなった安心感がある。ヘルヴィードはすぐに報告することを期待してそうではあるが、私の発見したことが一笑に付されることを危惧した。下手をすれば…どのみち大尋問官にユーモアが通じるとは思えない。永遠の炎の信奉者は失敗に厳しく対処することで有名である。


 そういうわけで、私は発見したことを公表するのを遅らせ、その代わりもっと知るために波止場を訪れた。当面は引き潮団が最も有効な情報源であると思われた。この悪名高い賊の集団は波止場で起こるほぼ全ての取引に手を広げている。商人が彼らの船を係留している間、立って待っているのを頻繁に見かける。金食い虫のように彼らはありとあらゆる商人や職人、船乗りから「税」や「手数料」を徴収する。彼らの餌食になるのは不愉快だが、引き潮団は大抵は肉をそぎ落としたり血を一滴も流すことなくコインを集める。それは単に波止場で商売をするための必要経費になってしまっていたというのが実態である。


 磯焼けしたスケリッジ生まれのリーダー、グドルンはよく港のそばの路地や倉庫で乗組員と一緒にエールを飲んでいるのを見かける。彼らの後をつけて監視すれば、街の他のリーダーとの裏取引のことをもっと知ることができると考えた。実際グドルンは日中ですら驚くほどたやすく見つけられた。どうやら引き潮団には常に保っていたい像や評判があるようだ。


 彼らが見えてくるかなり前から、酔った勢いで歌いながら大騒ぎしているのが聞こえてきた。用心したり警戒するよりも、彼らは心底のんきで無防備に見えた。グドルン自身は大きな木箱の上に座り、短剣で爪に挟まった泥をほじっていた。傍ではハーフリングの女が、賊の特徴的な道具である引っかけフックを使う準備をしていた。彼女がフックを路地の壁越しに投げて登りだすと、乗組員は彼女に声援を送り、ビンシーという名前を叫んだ。彼女は振り返って彼らを見下ろしてぺろっと舌を出すと、微笑んで機敏な登攀を続けた。


 一瞬、ハーフリングが視界から消えたが、彼女の方向から陽気な口笛が聞こえてくると、グドルンの唇は丸まり苦笑いに変わった。私は粗野な三人のドワーフが木箱を引き潮団の方に引きずって行くのを見つけた。グドルンはただ期待した様子でそこに立ち、両腕を広げて歓迎した。ドワーフの一人が近づき彼女の手に一枚のコインを置いた…。奇妙なことにあれだけの重い荷物に対して微々たる額だった。私はこのような寛大さを目にして驚いた。地区のドワーフたちは波止場の支配に大きな影響力を得ようとしようとしているという噂が流れていたからだ。


 好奇心を刺激され、私はドワーフたちが木箱をゆっくり街中に引きずって行くその後をつけることにした。彼らが用心しているのがわかったので、私は安全な距離を保つよう気を付けた。けれども悲しいかな、大祭司広場の喧騒に紛れて彼らを見失ってしまった。夜に短い睡眠を取ると、その跡は途絶えてしまっていた。私は日中の調査を終えるのが最善であると決心した。


 私の認める真実とはノヴィグラドのドワーフはもはや波止場の支配を争ってはいないということである。

 そして今求める真実はなぜ彼らはその試みを放棄しそれは誰の命令によるものだったかということである。

FXqcqcR.jpg


 私が大祭司広場を去った日から、行き詰まってしまったように感じた。同じ事実を何度も再検討して夜を過ごした。市場で盗み聞きしたことを思い出しては何かを閃くまで。服屋と魚売りが最近あった人殺しのことを噂していた。彫刻家のファーコと呼ばれる人物による新たな犠牲者であるのは明らかだった。何度も言及されているように、獲物に手をつける前に彼が刃を舐めることへの執着は、必要以上に加虐的であると私に印象付けた。この情報によって、ちょうど半月前に、彼が直近の獲物を手に入れた裏通りへと向かう決心をし、物乞いの集団に紛れて、何か尋常でないものを見つけられることを期待した。


 この直近の手がかりを追いかけている間、私は藁にも縋る気分だった。しかし振り返ってみても、別の選択肢があっただろうか?私は裏通りで、新しい乞食仲間の臭いに鼻孔が焼かれなくなるほど好機を待った。幸運なことに私の鼻にも忍耐にも見返りがあった。波止場で見覚えがあるドワーフがついに通りかかり、近くの建物の裏口を通って行ったのである。


 注意を引かないよう気を付けて、私は扉に忍び寄り行動の兆候がないか耳を澄ました。音は聞こえなかったので、私はゆっくりと音を立てずに中に入った。驚いたことに、私が昨日後をつけたの木箱を除いて内部には何もなかった。その箱も今は空っぽの口を開けていた。すると、遠くからかすかな囁き声が聞こえたので、私は地下室へと進んだ。冷たい石の階段を身をかがめて途中まで進み、狭い隙間から覗き込むと、ドワーフの集団がひざまずきうずくまっている姿を囲んでいるのが見えた。


 「割れ銭組から盗んだ奴がどうなるか聞いたことあるか?」私はその地下室から轟いていると思われる声を聞いて身震いがした。血が凍るようだった。気が狂ったのか勇気があったのか分からないが、私は話し手を一目見ようとほんの少し前に出ることにした。まさに彼の声からそうではないかと思った通り、それは私が探していた人物だった。


 そのドワーフは平時であれば、その盗人に「昔かたぎの」教訓を与えると豪語し、腰にぶら下げたその刀を軽くたたいて語気を強めていた。あの夜にもし彼が好む殺しの道具を見ていれば、私は実利的で理性的なドワーフの実業家として知られている、クリーヴァーの面前にいるのだということをすぐに思い知っただろう。というのは、彼を邪魔することもなく、彼に保護されていた場合の話だが…


 すると、彼の背後の地下道の奥深くから何かが現れた。それは百年経とうが予測できそうもないものだった。頭から蹄まで甲冑で覆われ、あまつさえ牙の一本に尖った鉄をかぶせている巨大な猪だった。


 人質は単純だがあり得ない生きて自由の身となる可能性を提示された。彼にはスキューワートゥース卿と呼ばれる野獣を負かすしかなかった。


 彼の最期はバラッドにふさわしいものだったと記すことができればどんなによかったかと思う。だがそこに広がったのは、猪が肉と骨を引きちぎる恐ろしい光景で、私はひどく陰鬱な気分になった。私は目的を達成し大祭司広場の裏通りへと急いで戻ってきた。


 私の認める真実とはクリーヴァーはあの夜集まった者の中にいたということである。

 そして今求める真実はなぜ信仰に生きる人間があのような卑劣な犯罪者と秘密裏に会っていたかということである。
Post automatically merged:

RbVBUt9g.jpg


 今朝は全く眠らなかったような感覚とともに目が覚めた。何とかかき集めたわずかばかりの睡眠も、鎧を身に着けた身の毛もよだつ野獣に食われるという恐ろしい悪夢にうなされた。眠れぬ息を深く吸い、すぐに私は耐え難いほど入浴したいことに気が付いた。残念ながら、いまなおルイーザに支払をする手段を欠いていたため、図々しくも体を洗うため彼女の設備を使わせてもらう勇気はなかった。


 爽快な入浴を必要とするあまり、体と精神をすっきりさせるために街の水路に飛び込んだ。泳ぐと冷たい水が私を受け入れ、誰かに見られることには気をかけなかった。だがそれは間違いだったと分かった。私が堤防に這い上がると、永遠の炎の二人の武装した兵士が待ちきれない様子で立っていた。彼らは私が服を着るのをじっと見張り、その堂々とした風采から、私には同行するほかに選択肢がないのは明らかだった。

 前回ヘルヴィードと会った場所に連れていかれると、兵士たちは私を質素な木の椅子に無理やり座らせた。彼らの目つきから私が抵抗するのを望んでいるようだった。接触するとそういう決着をすることが常なのだろう。私には分別があった。ヘルヴィードが別の扉から現れ、私の仕事に関して焦燥を表明した。私は大祭司へメルファルトがクリーヴァーとグドルンに対して街の地図を精査し、線を引きながら交渉していた一部始終を説明し始めた。私が推測したこと、そして残りの二人の共謀者に関する情報はまだ調査中であるということを説明した。だが当面は六人目の一員の存在は明かさないことにした。


 彼は私が報告をするのを熱心に聞いていたが、焦燥な様子は依然として残っていた。彼が手で合図をすると、兵士たちは外に出て行き、私たちは二人きりで会話することになった。私の膝の上にクラウンの入った袋が置かれると、私の軽薄さがその遅れ癖に関係していると告げられた。都合のいい口実だったが反論しようとは思わなかった。彼は再度身を乗り出し、新たな仕事を受ける気があるかと聞いた。私は即座に同意した。


 大尋問官は彼が最も恐れていることを説明した。永遠の炎がノヴィグラドで燃え続ける限り、街は守られるであろうという予言がなされたが、予言は誰がそれを支配するかには言及しなかった。彼は大祭司ヘメルファルトの強欲と権力への渇望が信仰を脆弱にすることを恐れているという。ジャック・ドゥ・アルダーズバーグは炎の薔薇の騎士団に多くの兵士を徴兵して南方に向かい栄光を求めた。またラドヴィッド王子が成人すれば、摂政評議会の時代は間もなく終わりを迎えるだろう。


 軍の主力が南方に割かれ、政治的に不安定な兆しが見えると、ヘメルファルトは教団の街への影響力が衰えているという噂を一蹴しなければならなかった。しかし恐らくもっと複雑なのは、最近大祭司の個人的な同伴者として最後に目撃されている教団の狂信者や新入りが姿を消す事態が続いていることだった。ヘルヴィードは彼らの失踪の件を探っていたが、その件は無視するよう指示された。彼は内密にそれを拒んでいる。このように教団内の誰が信頼できるか不確かであるがために、彼は私にその件を調査するように指示したのだという。私は再び問うた…一体どんな窮地に追い込まれてしまったのだろうか?


 私の認める真実とは教団のノヴィグラドへの影響力は私が考えていたよりも脆いということである。

 そして今求める真実は炎誓いの狂信者たちはどこに消えてしまったかということである。


za2kLa0.jpg



 銭入れが少し重くなったので、私はルイザ夫人への借金を清算することにした。父が死んでから初めて肩の荷を下ろし堂々としていられた。ここ数日間はヘルヴィードが言及した新しく入った狂信者に出くわすことを願い、慎重に街を嗅ぎまわって過ごした。何日も成果がない日が続いて意気消沈し、捜索をやめる覚悟もした。それは私の粘り強さがとうとう報われるまでの話だが。


 私は教団の改宗者の集団を見かけ、聖堂島からよりによってビッツまで後をつけた。空気には絶望の臭いが漂い、とりわけ遠くからでも教団の門弟が落ち着いていないことに気がついた。彼らが下水道に入るとすぐ、私は彼らの目的地にうすうす感づいた。街の通りの下には闘技場があり、金や栄光、もしくは惨めな暮らしの憂さ晴らしを求める者たちに人気だという噂を聞いたことがあった。

私は風変わりな仮面をつけている二人の衛兵をやり過ぎようと試みる前に、彼らが闘技場に入るのを辛抱強く待った。ヘルヴィードの仕事を完遂するのに必要であることは分かっていたので、ルイザに払ったあと残った数クラウンを使った。入場の条件といったところだ。闘士たちのことはよく知らなかったのでやめておきたかったが、私は慌てて「タッターウィング」と奴にコインを投じた。


 下にある闘技場を取り囲んでいる手すりの周りに群衆がこれから起こる見世物を待ちきれない様子で集まっていた。私は手すりに寄りかかるヘメルファルトを見つけゆっくり近づいて行った。彼の表情はある種の焦燥か失望を示していた。素性の分からないシャツを着ていない男が大祭司の隣に向かった。彼の無邪気な雰囲気に鳥肌が立った。私は闘技場に目を向けたが、何とか耳だけを澄ませた。


 私が追ってきた狂信者たちは土と泥の闘技場に向かっていた。彼らの目的も彼らを待っている運命も不確かだった。彼ら四人は錆びた剣を手に取り、背中合わせで戦闘態勢を取り立っていた。そのとき一人の男が闘技場の反対側の張り出し席へと進んでイゴールと自己紹介をした。そしてヘメルファルトの隣に立つ薄汚い刺青の男を指差し、ホアソン・ジュニアの闘技場へと歓迎した。私はあの夜のシャツを着ていない男の名前を知った。残るは二人だけだ。


 「さあ彼らがお前たちお気に入りのワイバーンとどう上手くやるか見てみようじゃないか。タッターウィング!」イゴールが大声で叫ぶと、獰猛なドラゴンのような生き物が門を破って闘技場に突入してきた。あっという間に、その獣の爪と牙は獲物を切り裂き、跡にはほとんど何も残っていなかった。部屋は血を求める観衆の耳をつんざく歓声で満たされた。得意気な笑みを浮かべ、へメルファルトは手を伸ばしホアソンは一組の金のコインを渋々手渡した。それはドワーフたちがグドルンに渡したコインと同じものには見えなかった。


 だが大祭司は目に見えてその額に不満で、四人の命は四枚のコインに値すると主張した。ホアソンの不愉快な様子は敵意に満ちた怒りに変わり、こんな質の悪い品なら何か受け取れるだけでヘメルファルトは幸運だと文句をつけた。意外にも見苦しいうなり声を上げ、大祭司は受け取ったものを踏みつけた。長居し過ぎるのを恐れ、私は賞金を受け取り、ようやく安らげるようになった父の書斎へと立ち去った。


 私の認める真実とはワイバーンでない方に賭けるのは決して賢明でないということである。

 そして今求める真実はなぜ永遠の炎は命をあのような怪しいコインと交換しているのかということである。
 
Last edited:
Syndicate letter 8.jpg



 今朝、私はヘルヴィードに調査結果を報告するために聖堂島へと向かった。もし彼が私の調査内容に不安を感じていたとしても、それを表に出すことはなかった。彼は熱心に耳を傾け、私が話し終えるとずっしりとしたコイン袋を私の膝の上に投げた。言葉もなく身振りで去るように合図した。彼の願いを聞き入れるも、私は思い切って扉の戸口から彼の方向を一瞥することにした。彼はすでに暗闇の中に消えていた。彼の足の速さに驚きつつも、私は書斎へと帰路についた。


 すぐに私は最新の記録をするために手記を開くと、胃袋が猛烈な勢いでひっくり返りそうになった。まさにそのページに女の口紅の跡がついていたのだ!誰かが私の留守中に侵入しただけでなく、メッセージを送ろうとすらしたということだ。だがなぜだろう?何か求めるものがあるのだろうか?その時点で確かなことは一つだ。私は他にプライバシーの侵害が起こらないのを確かめなければならなかった。もう手記を完全な無防備にしておくことはできなかった。私の書斎ですら詮索好きの目から安全ではないからだ。


 その跡が私に残したのはただ一つの合理的な結論であった。ルイザもしくは彼女の従業員の誰かがこのメッセージを残した張本人であるということだ。私は答えが欲しかった。中央広間に行くと彼女がいつもたむろしている場所は奇妙なことに無人であった。私は本能的にその部屋の隅から隅まで人の気配を探した。すると、薄暗い明かりの灯った部屋の隅に、前は見過ごしていた、ただ静かに隅のテーブルで酒を飲んでいる一人の男がいることに気づいた。私が目に留まったのは明らかだったが、彼は何の反応もしなかった。さらに別の謎を未解決にすることはできなかったので、私は彼に話しかけようと決心した。勇気を出して私は酒棚からウォッカの瓶をつかみ取った。


 椅子に掛ける前に、彼の横の椅子の上に独特で思いも寄らない帽子が置かれているのを見つけた。留められたニルフガードの印章はその男の忠誠を明確に表していたため、私は彼の出身を話題にして話を始めた。彼は狡猾な笑みを浮かべ、ドードリック・リューマーツであると自己紹介をした。そして彼は私をずっと辛抱強く待っていたと告げ、私の手記が好みであるという所見を付け加えた。私の手記につけられたのが彼の唇であったとは思えないので、何人が私の報告を読んだのだろうかと疑問に思った。


 おそらく私の不安を感じ取って、彼は微笑んで恐れることはないと言った。彼はこの面会を手配するのにかなりの額を支払って、彼が雇った女に手記を取りに行かせ、そのページにキスまでして私の注意を引かせたのだと認めた。だが最も驚いたのが、彼は情報を共有したいと申し出たことだった。我々が盲目結社の支配する建物の中で話しているということが明らかになった。彼の仲間で「物乞いの王」の名で通っている謎めいた男によって運営されている組織だ。彼はこの「王」が私の残りの標的の一人であると確信しているようだった。


 援助と引き換えの要求に応じ、彼が私の手記を読んでなお知りたがったので、私の軌跡そして仕事の物語に没頭した。ウォッカのボトルが最後の一滴までなくなると、彼は別れを告げて立ち去った。今なお私はもっと知る必要があった。幸運にも、追加の指示を書いた覚書が椅子の上に残されていた。私はドードリックに会うのはこれで最後であろうと確信していた。


 私の認める真実とは私の書斎が盲目結社によって所有される建造物にあったということである。

 そして今求める真実はドードリックがどんな計画を用意しているのかということである。
 
Last edited:
Syndicate letter 9.png



 私は指示を何度も読み返し、ドードリックの目的を匂わすものを見定めようとしたが徒労であった。つい最近から人生を包み込んだ狂気に秩序をもたらすために、もう一度思い切る必要があった。十分すぎるほどの警戒からか、ドードリックはトレトゴール門の外で会うように指示した。到着しても彼はどこにも見えなかったので、ポンター川の岸辺でくつろぐことにした。


 穏やかに流れる川の音が待ち合わせの定刻をとうに過ぎ、高ぶった神経を落ち着かせた。私の思考は裏切りの恐怖から、真昼の陽光を浴びる純粋な喜びへと変わっていた。しかし平穏は咳払いの音によって突然邪魔された。ドードリックは近づくなり私の方に黄金のコインを投げた。静穏な昏迷状態から目覚めるところだったので、それを受け止めるには私の反応は遅すぎた。私はそれが水底に転がり落ちる前に大慌てで拾った。


 彼は帽子を除いては前回会ったときと同じような格好をしていた。その欠落はどうしてこのような公の場で忠誠を意図的に隠すことにしたのか考えさせた。コインを調べ始めると彼は私の隣に座った。それは今までに見たどの通貨とも違っていた。中央には奇妙な記号が「シンジケートの破ることのできない誓約」という文字に囲まれていた。しばらく考え込んだがその意味は未だ理解できなかった。そのとき私の考えを推測したかのように、ドードリックは彼にもそのコインの意味は分からないのだと認めた。


 彼はさらに遅刻したことに対していいかげんな謝罪をして、そのコインを入手するのは想定していたよりも手ごわい挑戦であったと説明した。どうもフランシス・ベドラムは盲目結社の皆に似たコインを見せ、彼らはあらゆる役目や取引の対価として可能な限りこのコインを受け取るつもりだと説明したらしい。しかし前述の役割に失敗することは、彼でさえ庇おうともそうすることもできない悲惨な結末をもたらすであろうと。ドードリックがさらに詳細を探っても、べドラムの判断は尊重されるべきだという確固たる期待により払いのけられた。


 何度も繰り返し試みても、ドードリックはどのようにそのコインを入手したか打ち明けるのを断った。しかし彼はこの黄金の一片が、ノヴィグラドの裏社会において新たな枠組みを潜在的に象徴するものであると信じている、そして疑念は晴れないままであると述べた。この点に対して、目配せして小突きながら、彼の関心はニルフガードお決まりの再侵攻計画に起因するものなのかどうか尋ねた。残念ながら、私が情報を収集しようとわずかに偽装した試みを彼が無視したときも、彼の振る舞いは何の糸口も示していなかった。


 それでも彼は計画を私に明かした。私の役割は単純であった。ノヴィグラドの裏社会で謎めいた最後の人物の正体を学ぶためにその奇妙なコインを使うこと。もう一度しかし今度はもっと直接的に、私はなぜこの情報が彼にとってそんなに価値があるのかを尋ねた。今度は彼の様子は目に見えて不機嫌で、私の分別のなさへの失望を表明することで答えた。立ち去る前に彼は私の目を見つめ、私の祖父の致命的な誤りを繰り返すつもりならば大変残念なことであると言った。私は調子に乗りすぎたと不安になった。


 私の認める真実とはニルフガード帝国がノヴィグラドの裏社会を操るための知識を欲しているということである。

 そして今求める真実はこのコインが私の役割を果たすのに役立つのかどうかということである。
 
Syndicate letter 10.jpg



 途方に暮れ方向も分からず、その前の晩は埠頭でジョッキの底に閃きを探し求めた。まったく意識せず、気が付くと酒場の隅で引き潮団のそばで飲んでいた。グドランこそ不在だったものの、前に裏通りの壁を登っていたハーフリングの女には見覚えがあった。騒々しい歓声と乾杯から彼女のまた別の技を称賛しているのだと思われたが、実際のところは分からなかった。私はただ、その夜は彼らのように気楽でいたかった。


 何杯かのカリッジエールが腹に収まると、最後に残された空席に座ろうと彼らのテーブルまでふらついて行った。彼らの笑い声の中で私の存在は拒絶も抱擁もされなかった。そして愚かにも勇気を振り絞って彼らにコインを持って近づこうともっとミードをがぶ飲みした。いまだどう使ってよいものか不確かなこのコインで。


 みっともない過ちの結果として、次の記憶は空部屋のわらの山の中で目覚めたことになった。まるで鍛冶屋の金床の代わりに使われたかのように頭がガンガン鳴っていた。ようやく私は馬小屋にいるということを悟ったが、それは私のよく知っているものではなかった。そのとき私の傍らにドードリックが横たわっているのに気が付いた。後に知ることになったが、昨夜の私の無謀さのおかげで彼は死にかけるほど殴られていた。


 間もなく大男が部屋に入ってきた。彼はしゃれた服装で微かに足を引きずっていた。古くからの傷のようだった。一言も発さなくても彼が探し求めていた最後の一員であるということは分かった。彼はシギ・ルーヴェンと自己紹介したが、私は騙されなかった。こんな状況でも、私がレダニアのディクストラ伯爵だと知っていることに彼は気が付いていないと確信していた。父の手記にはその男が祖父の最期に関与していたという疑念とともに特徴的な肖像画があったのだ。


 彼はドードリックの忠誠に注意を向けてくれたという理由で私に感謝したが、それに先だって悪態をつきニルフガードに言及し唾を吐きかけた。彼の経歴を考えるとまったく驚くことではないと私は思った。私たちの手短な出会いを考慮してもなお、あのコインがまだ私のポケットの中で無事であるという発見も相まって、ミードに我を忘れていた数時間、私はコインそのものではなくドードリックをおとりに使うことにしたのだと今は確信している。ドードリックは私の手記を読んでいて、私の情報を野ざらしのままにしておくには危険すぎたので、それは理にかなった行動だった。


 それから、俊敏な手さばきでディクストラは杖に仕込まれた刀でドードリックの喉を搔き切った。行為を終えて彼は私に立つように合図した。突然の暴力の瞬間にやや落ち着かなかったので、私は慎重に立ち上がり彼の申し出に入念に耳を傾けた。彼は新しくできた組織に加わることを望んだ。私に何を期待しているのかを探ると、彼はただ無条件の忠誠と信頼を要求した。


 私の明らかな疑念に反して、ディクストラの言葉には父の死以来どんな時よりも安全だと思わせる何かがあった。私はひとかどの人物で老練な彼からどんな真実を知ることができるだろうかと思った。当面は登用の申し出を受けることにした。今度こそ安全な書斎から再び書けるようになって、私の先行きに興奮の兆しを感じずにはいられなかった。


 私の認める真実とは前任のレダニア諜報部長は相変わらず非情で危険であるということである。

 そして今求める真実は私の新しい人脈から家族の過去について何か知ることができるかということである。
 
Top Bottom